オーケストラお仕事探訪②「ステージマネージャー」

オーケストラコンサートにおける見えない部分のお仕事を紹介していく「オーケストラお仕事探訪」シリーズ。第1回は”音を出さない音楽家”、指揮者のお仕事についてご紹介しました。シリーズ2回目となる今回は、さらに一歩踏み込んで、オーケストラの裏方のお仕事をご紹介します。その名も「ステージマネージャー」。初めて聞く名前だという方も多いでしょう。

 

オーケストラ運営になくてはならない役職の筆頭であるこの「ステージマネージャー」、いったいどのような役割を担っているのでしょうか?普段は絶対に人前には現れない、しかしこれからプロの奏者を目指す若い人たちにこそ知ってほしい大切な役割「ステージマネージャー」について、ご紹介していきます。

オーケストラの心臓!ステージマネージャーってどんな仕事?

ステージマネージャーは業界用語で「ステマネ」と略されて呼ばれています。ステマネを一言で言えば、「舞台上の責任者」に当たります。設営からリハーサル、本番、そして撤収までの全てに目を配り、事故が起こらないように配慮しつつ、円滑に進むよう常に監督し続ける、言わば「実務上のトップ」に当たります。

 

こうして書いてみると「見ていることが仕事」みたいに感じられますが、実際はとてつもない体力勝負の体育会系仕事!筆者も学生時代、某在京プロオケ(プロのオーケストラ)のステマネ補佐としてアルバイトしていましたが、それはそれは大変な毎日でした。その経験を買われてアマオケ(アマチュアのオーケストラ)のステマネを単発で務めたこともあります。そうした筆者自身の経験談も交えつつ、もう少し細かくステマネの仕事を見ていきましょう。

 

ステージマネージャーの仕事ステージセッティング

ステージマネージャーの仕事は、ステージのセッティングから始まります。管楽器・打楽器を並べるためのひな壇を組み、必要に応じて落下防止の策を講じておきます。その日のプログラムから編成を把握しておき、譜面台と椅子、打楽器類、そして各楽器に必要な小物類を決められたとおりに配置していきます。

 

この時、プロの熟練ステージマネージャーは、奏者個人の譜面台の高さや角度を全て把握しているので、この時点でそれを作ってしまいます。各楽器の首席奏者には高さ調整できる「背もたれ付きピアノ椅子」が用意されることが多いのですが、この高さも同様に調整しておきます。

 

また、プログラムによっては配置の変更=舞台転換が必要な場合もあります。必要に応じて、譜面台の位置に目印を施しておくなど、スムーズな転換の下準備も進めておきます。その上で、奏者の入退場の経路も確保し、安全に往来できるかどうかを確認しておきます。これらのセッティングを4,5人程度で朝から一気に組上げるため、意外と重労働なんです。

 

ステージマネージャーの仕事舞台進行の監督

本番が始まると、各ステージドアにステマネ補佐が配置され、ステマネの合図で奏者をステージ上に入場するよう促します。調光室のスタッフに本番用照明への切り替えを指示し、指揮者を入場させる...これら全てがステージマネージャーの判断のもとに行われます。

 

基本的に、音楽が演奏されている間は次の段取りへの準備くらいしかやることはありませんが、楽器トラブルなど不測の事態が起こると、演奏中であってもそれに対応しなければなりません。筆者がステマネを務めた室内楽のコンサートでは、コントラバスの弓が本番中に壊れるというハプニングが起き、その奏者の楽器ケースから予備の弓を出して舞台上に届ける...ということもありました。

 

コンサートによっては、曲と曲の間に司会やMCが入ることもあります。この時、司会者へ入場を合図するのももちろんステージマネージャー。中には終わり方が分かりづらい曲、急に終わる曲なんかもあるので、出番の少し前に声かけできるように、演奏される曲への理解度も重要になってきます。指揮者自身がマイクを持つ場合も、ステマネが譜面台の横にマイクをあらかじめセッティングする必要があります。

 

ステージマネージャーの仕事事前準備編

ここまではホールにおける実務的な面をご紹介してきましたが、実はホールに入る前にこそ大事な仕事があったりします。スムーズな進行に必要不可欠な物、それは「周到な打ち合わせと前準備」です。

 

まず必要なのは事務方との打ち合わせです。これはプロアマ問わず、プログラムを決める人間とステマネは異なることがほとんどです。事務方が決めたプログラムとコンサートの概要をステマネが受け取り、意見交換しながら実現へと話を進めていきます。

 

楽団所有のホール以外を借りて使用する場合、ここでの打ち合わせを元にホールスタッフとの打ち合わせも必要になります。企画内容によってはホール側からNGや条件が課させることがあります。この段階で当日のタイムテーブルも提出しなければならないので、さらに前からの綿密な準備が必要になります。

 

ステージマネージャーの仕事その他雑務全般

これは恐らくプロオケのみですが、筆者がアルバイトしたプロオケではケータリングの準備はステマネ補佐の仕事でした。オーケストラによっては事務方さんの仕事かもしれません。

 

具体的にはコーヒーメーカーのセッティングや補充、お茶請けの準備の他、奏者や客演指揮者など関係者からの差し入れを開封し「○○様より」などと分かるようにセッティングしておいたりもします。

 

全ては奏者のため、高いクオリティの演奏のため

客席からは決して見えない、ステージマネージャーの仕事をざっくりとご紹介して参りました。色々な仕事があるように思えますが、これだけのことをする理由はただ一つ、「奏者に気持ちよく演奏してもらうため」なのです。

 

音を出せないステージマネージャーやその補佐たちにとって、「いい音を出す」ことでお客様に還元することは出来ません。出来ることは、「奏者をいかに演奏に集中させてあげられるか」ということだけなんです。これがお客様の満足度をあげるただひとつの方法なんです。

 

だからこそ、ステマネをはじめとする裏方さんへの感謝を忘れない奏者は裏方からも大切に扱われますし、そうすればストレスなく演奏に集中できます。逆に裏方をぞんざいに扱う奏者は丁寧に扱われなくなり、結果的にいい演奏が出来る可能性を下げることになります。

 

良いオーケストラに良いステマネあり。どんなに素晴らしい奏者も、ステマネがいなければステージに乗ることすらできないんです。良いと思えるコンサートに出会えた時は、ほんの少しだけ、目に見えない働きでオーケストラを支えるステージマネージャーにも思いを馳せてみて下さいね。

 

 

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