いまさら聞けない「楽章」って何のこと?

クラシック音楽を聴く時、必ずと言っていいほど目にするのが「楽章」と言う言葉です。

例えば、年末恒例のベートーヴェン「第九」と聞いてほとんどの方が思い浮かべるあの合唱は実は「第四楽章」。「ダダダダーン」でお馴染みの「運命」は交響曲第五番の第一楽章。有名な「トルコ行進曲」のあの旋律はモーツァルト「ピアノソナタ第11番」の第三楽章です。

では、「楽章」とは一体何のことなのでしょうか?「いまさらそんなの聞けない!」そんなあなたのための記事、ご用意しました。

そもそも「楽章」って何?


元々大きな1曲として書かれた曲が細かくいくつかの曲に分かれていることがあります。それらひとつひとつを、「楽章」と呼んでいます。…少しわかりにくいですね。

曲を「部屋の間取り」と例えてみます。一戸建てだとすると、この一戸建て全体を「曲」、内包されている寝室やキッチンなど独立しているものを「楽章」と呼べます。

2LDKの場合、「部屋1」「部屋2」「リビング」「ダイニングキッチン」のそれぞれが楽章に当たります。

楽章は多くの場合、前後の曲とは続けて書かずに、楽章ごとに終止線で一度終わらせます。そのため、ある特定の楽章のみを取り出して演奏することも可能です。

また、前の楽章から続けて次の楽章へと進むこともあります。これはイタリア語で「アタッカ」と呼ばれ、作曲家によって楽譜に指示記号として書き記されます。この場合、前の楽章の最後に終止線は書かれません。

楽章は何のためにあるの?

クラシック音楽の歴史は、19世紀のロマン派に至るまで、「緻密な音楽設計」と「音楽的美しさ」の両立を目指して発展してきました。特に前者は重要視され、その技術は「音楽形式」として積み重ねられてきました。

この「音楽形式」を形作る要素の一つが「楽章」でした。前述の「2LDK」も、建築様式のひとつですね。この楽章という大きなルールの中で、作曲家たちは自らの音楽性と作曲技術を楽譜に書き落としてきたのです。

いったいいつから?楽章の誕生と発達

「楽章」が大きく発展したのは、年代で言うと17世紀~18世紀、バロック時代後期~古典派の時代です。この時代は、器楽音楽が大きく発展した時代でもあります。

バロックの前、ルネサンスと呼ばれる時代には、教会旋法という特殊な音階を使った合唱音楽が中心でした。

バロック時代の楽器の発達と長短音階の登場、作曲技法の成熟により、作曲家はより高度な構造を作曲することが可能になりました。

さらに音楽の中心が宮廷の貴族達になったことで、より定型化された芸術を求められた時代でもありました。そこで「楽章」を配することで、より明確に形式感を示すことができるようになったのです。

楽章っていくつあるの?

楽章の数は、時代やジャンル、作曲家によって多少ばらつきはありますが、多くの場合3楽章又は4楽章の作品が多いようです。

さらにそれらの楽章に、作曲家たちはそれぞれ定型化した役割を与えました。特に曲のテンポ感で明確に分けられており、例えば全3楽章の楽曲の場合、第1楽章から順に「速い」「遅い」「速い」、専門的には「急」「緩」「急」と呼ばれるテンプレートが与えられました。

この定型の中で、作曲家は音楽を設計・構築し、音楽的な美しさと音楽構造の妙技を発揮してきたのです。

また、これらの楽章には、行進曲や伝統的な舞曲のスタイルを取り入れることも少なくありません。交響曲においては、「急」「緩」「舞曲」「急」という4楽章形式が伝統的に取られています。

逆にこれらのテンプレートを逆手に取り、聴衆に意外性を持たせる工夫をする作曲家もいます。一番有名な例はベートーヴェン作曲の「交響曲第9番」、俗にいう「第九」です。

この第九では、ベートーヴェンは第3楽章ではなく第2楽章に「スケルツォ」と呼ばれる舞曲を採用し、第3楽章に緩徐楽章(遅い)を配置しました。この配置転換には、第2・第3楽章だけでなく、第4楽章をより印象的に始める効果も与えています。

楽章のない音楽ってあるの?

このように、クラシック音楽の歴史上、楽章のある楽曲が数多く作曲され、発展してきました。しかし、ジャンルによっては、楽章を採用していない音楽も存在しています。

オペラやバレエといった舞台付きの音楽は、筆者の調べられる限り、楽章を持つ曲は1曲も存在していません。代わりに、序曲や間奏曲、各幕のほか、場や各楽曲番号・タイトルで細かく分けられることが多いです。

また、ショパンやリストといった「ロマン派」と呼ばれる時代の音楽家たちは、楽曲の緻密さや建築性のようなものよりも、感情や旋律の美しさを求めました。そのため、楽章を複数持たない「単一楽章」の楽曲が多く作曲されました。

これで楽章のことが丸わかり!

いかがでしたでしょうか?知っているようで知らない楽章の世界をお届けしました。CDなどでは楽章ごとにトラック分けしてあることもあるので、聴き比べの際に役に立つと思います。

お気に入りの楽章があると、長い曲でも全曲聴くのが楽しくなりますね。筆者のお気に入りはショパン作曲の「ピアノ協奏曲第1番第二楽章」です。非常にロマンチックな美しい曲なので、クラシック初心者の方にもおすすめです。

また、この協奏曲の第三楽章には、ショパンの母国ポーランドの民族舞踊が採用されています。作曲家の出身地などに注目すると、楽章構成に個性が見えてより楽しめます。

音楽形式を完全に理解することは非常に難しいですが、楽章は最も簡単に分かる音楽形式のひとつです。この機会に是非、お気に入りの楽章を求めて、あまり難しく考えずいろいろな楽曲を聴いてみてください。

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