え?440Hzじゃないの?クラシック音楽界のチューニング事情

オーケストラの演奏会へ行くと、開演直前に必ずチューニングしているのを見ることができます。実はこのチューニングの基準音、ギターなどを使ったバンド音楽やポピュラー音楽における基準音と少しだけ違うんです。

ここでは、意外と知られていないオーケストラ等、クラシック音楽におけるチューニング事情を、歴史背景や実際の数字を踏まえてご紹介していきます。オーケストラについてもう一歩詳しくなりたい方、必見です!

基準ピッチとは?

オーケストラでは非常に多くの楽器と奏者が一つの音楽を奏でます。しかし、楽器をケースから出した段階では、それぞれの楽器で同じ音を出したとしても、音程にかなりのばらつきが出てしまいます。

このばらつきを、基準である特定の音程に揃えることで、より美しいハーモニーを可能にする...これを「チューニング」と呼びます。基準となる音を「基準音」、その基準音の高さをさらに正確に数字で示したものを、一般的に「基準ピッチ」と呼んでいます。

オーケストラでは「A音」=「ラ」を基準音にしてチューニングします。これは全ての弦楽器が開放弦(左手の指で弦を抑えない)で出せる音であるためだと言われています。

この基準音Aの高さ=基準ピッチは、国際規格として振動数「Hz(ヘルツ)」の数値で定められています。ヘルツの数値が上がるほど音程が高くなり、数値が下がると音程も低くなります。

チューニングの手順は、最初にオーボエがA音を出し、そこにコンサートマスター、以下他の楽器が合わせるスタイルを取っています。

<オーボエ>

 

これはオーボエが他の楽器よりも音程の微調整が難しく、オーボエのその日の音程に合わせるのが効率がいいためだと言われています。もちろんオーボエもチューナー(チューニング補助機械)を使って基準ピッチに近い音程を出せるようにしています。

ちょこプロ

基準ピッチはどのように決められた?その歴史をご紹介!

現在の基準ピッチはA=440Hzです。この数値はいったいどのような経緯で決まったのでしょうか。
今から400年ほど前の基準ピッチはA=415Hz程だったと言われています。それが100年ほど進んだ300年ほど前には420~425Hz、19世紀前半にはすでに現在のA=440に近いチューニングが登場しています。

その後、基準ピッチは国や地域によって驚くほどのばらつきをみせます。極端な例ではなんとA=461Hzであったところもあり、現代のB♭音の周波数が約466Hzであることを考えると、「同じ音」と呼ばれながら実際はほぼ半音も高い状況でした。

このように国や時代によって異なっていた基準ピッチですが、音楽が産業化・機械化するに従い、「統一規格としての基準音」が必要とされるようになりました。そうした中で1939年に国際会議が開かれ、「A=440Hz」という基準が生まれました。

<クリップ型チューナー>

この基準ピッチは戦後に別の機関で再び承認され、現在に至るまで様々な音楽機材の基準音として役目を果たしてきました。例えば、ギターなどに用いるクリップ型のチューナーはA=440Hzで設定されている他、一般的に発売されている電子ピアノやシンセサイザーの基準ピッチもA=440Hzで設定されています。

基準ピッチは国によって違う?日本の基準ピッチは?

このような経緯で定められた基準ピッチですが、オーケストラをはじめとするクラシック音楽業界の現場では異なる基準が使われることが多いようです。

例えば日本を代表するオーケストラ、NHK交響楽団のチューニング音は440Hzより少し高いA=442Hzであることが知られています。音楽ホール備え付けのグランドピアノもA=442にチューニングされていることがほとんどです
また、部活などのアマチュア現場でも同様に、例えば吹奏楽でもA=442が主流になっており、筆者の所属していた合唱部も中学高校共にA=442で練習していました。

このように日本のクラシック音楽業界ではA=442Hzが当たり前のように基準ピッチとして広まっています。しかし世界的に見ると国や都市、オーケストラや指揮者によっても異なるという現象が起こっています。

現在、世界の主要なオーケストラではA=442~444Hzが主流となっています。かつて「楽壇の帝王」と呼ばれた名指揮者・カラヤンはA=446という非常に高いピッチを好みました。

ちょこプロ

オーケストラがA=442Hzを使うワケは?

一般的に、音程が上がるほどサウンドが華やかに聞こえ、音程が下がると暗く重々しく聞こえる傾向にあります。そのため、より華やかなサウンドを求めた各オーケストラは、A=440Hzよりも高いチューニングを求めたと言えます。

また、弦楽器は弦の張力によって音色や音量も左右されるため、基準ピッチが上がると、その分大きな音が出やすいというメリットもあります。

ちなみにオーケストラの伴奏で独奏するソリストは、オーケストラよりもさらに高くチューニングするのが一般的です。これはより華やかで大きな音を求めるという理由の他、さらに人間の耳には高い音のほうがはっきり聞こえるという特徴を生かすためだと言われています。

意外と奥深い!?オーケストラのチューニングの世界を解説してみた!

いかがでしたでしょうか?バンド音楽などで主流なA=440Hzが、オーケストラではほとんど使われていないことがお分かりいただけたかと思います。国で分類すると、唯一アメリカのみがA=440Hzを用いているようです。

また、いわゆる「古楽」と呼ばれる、約400年前の音楽を現代において専門的に演奏するオーケストラも存在します。彼らは作曲家の時代の楽器と基準ピッチを採用して演奏するため、通常のオーケストラよりもかなり低い音程でチューニングされています。

この機会に是非、いろいろなオーケストラを聴き比べてみてください。ピッチについてのみならず、きっと今まで気づかなかった新しい音楽の楽しみ方が出来ますよ。

おすすめの記事