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皆さんは好きな作曲家はいますか?
筆者はロマン派の作曲家たち、特にショパンが大好きでよく聴きます。古典派の音楽には無い美しいメロディと甘美な和声感、たまらないですね。
今、「ロマン派」「古典派」という言葉を用いましたが、クラシック初心者の皆さんには聴きなじみのない言葉だったかもしれません。クラシック音楽を聴き始めた人たちにとって、専門的な用語は避けては通れない難しい問題です。
初心者向けのCDの解説書を開いても、歴史や様式にまつわる言葉が非常に多く、その言葉自体の解説も併記されているものはなかなか出会えません。
そこでここでは、知ってると便利なクラシック音楽の専門用語「古典派」「ロマン派」ついてご紹介します。
「古典派」ってどんな時代?
バロック時代最後にして最大の巨匠J.S.バッハが没する直前~ベートーヴェンの死の間に興った音楽様式のことを、「古典派」と呼んでいます。年代にして、1730年頃~1827年(ベートーヴェンの没年)の約100年間ですが、前の「バロック」、後の「ロマン派」と少しだけ時期が被っています。
世界史的には、この時代のヨーロッパはまさしく激動の時代でした。貴族社会が終わりを告げ、フランス革命によって貴族の物だった音楽は庶民の手に渡りました。古典派を代表する作曲家モーツァルトはあのマリー・アントワネットとも交友があったことでも有名ですが、貴族の没落と共に困窮していたことは映画「アマデウス」でも描かれています。
きっちりかっちり!「古典派」の音楽
元々「クラシック(=古典)」と言えば「古典派」の音楽を指します。この時代の音楽の中心はウィーンやパリの宮殿。作曲家たちは各地の貴族に召し抱えられ、宮廷所属の楽団や歌劇場で活躍しました。発注元も賃金の支払いも貴族でした。安定した収入を得たうえで自身の才能を存分に発揮できる環境を、音楽家たちは持っていました。
音楽的には、何と言っても「機能和声の確立」が挙げられます。つまり、それまでは「旋律+旋律(+旋律+旋律...)」と、複数のメロディーを重ねて音楽を作る多声部音楽がメインだったのに対し、古典派の音楽は「旋律+和音」がメインとなった時代で、いわゆるコード進行の基礎が完成しました。
また、貴族社会であるとは物事を形式化することでもあり、それは音楽も例外ではありませんでした。「決まった形の中で出来ることを模索する」という作曲家たちの努力によって、作曲技法が大きく進化した時代でもありました。
「ソナタ形式の確立」がその典型的な例でしょう。スカルラッティやハイドンらによって基礎が確立され、モーツァルトがそれを拡大・定着し協奏曲やオペラの序曲にも転用するようになりました。そしてベートーヴェンによってソナタ形式はバロック時代の技法をも吸収し最大化され、ロマン派の作曲家たちにも大きな影響を与えました。
また、古典派の時代は器楽上の進歩ばかり語られることが多いのですが、実はオペラが大きく発展した時代でもありました。モーツァルトはあらゆる分野で素晴らしい作品を残していますが、オペラにおいては「独唱(アリア)は感情を歌うから時間が止まる」という常識を「アリア中にも話を進める」という画期的な手法で改革を起こしました。
ロマン派はどんな時代?
古典派が貴族の音楽だったのに対し、ロマン派は常に庶民の音楽でした。年代にして1800年代から1900年代初頭まで、民主主義の隆盛と共に発展しました。それまで音楽家を収入面で支えたのは貴族たちでしたが、ロマン派はブルジョワが資金や演奏機会を与えました。
また、技術の革新も進んでいき、楽器の改良が進んだ時代でもありました。後述しますが、これも音楽を作る上で大きな影響を与えました。
超ロマンチック!「ロマン派」の音楽
ロマン派と言っても、実は音楽的には古典派と大きくかけ離れているわけではなく、むしろ古典派の音楽を拡大・自由化したものととらえることが出来ます。一部の音楽学者には「古典派とロマン派は区別しない」という主張をする人もいます。
とはいえロマン派はその名の通り、古典派にはないロマンチックな旋律と和声が最大の魅力だと言えます。初期ロマン派と言われるシューベルトはかなり古典派の香りも残していますが、やはり節々に古典派にはないロマンチックな音が散りばめられています。
ロマン派最大の特徴は「形式の自由さ」でしょう。依然としてソナタ形式の作品は作られていましたが、古典派の作品と比べるととても自由に書かれています。そもそも形式を持たない作品が大多数を占めていて、楽章も持たない単一の曲が多く書かれました。
そして冒頭でも触れたショパン、ピアニストとしても著名だったリストやシューマンなどによって、多くのピアノ曲も作曲されました。これはピアノが大幅に改良され、ダンパーペダル(音を伸ばすペダル)、ソフトペダル(音量を小さくできるペダル)が採用されたことにより、より繊細な表現が出来るようになったことが理由と考えられます。
この時代のピアノを用いた録音も存在します。ピアニストの仲道郁代が、ショパンが愛用したプレイエル社の同型モデルでショパンの「ピアノ協奏曲」を録音しています。現代のピアノと比べて音色が丸く、非常に興味い演奏です。
また、ロマン派の時代はバレエ・オペラの分野で完成を見せるまでに発展しました。バレエは古典派では「オペラの中の舞踊」という非常に低い位置づけだったのに対し、ロマン派突入直前頃からバレエを独立させる動きが現れ、ロマン派の約100年の間にバレエのための音楽がたくさん作られ、現代でも主要なレパートリーはこの時代の作品に占められています。
オペラにおいては歌唱法が発達したことで、より技巧的な歌い方を要求されるようになりました。超高音、超高速のパッセージ、超早口、超ロングトーンなどはロマン派の前半で大流行しましたが、物語まで軽視してしまった結果急速に飽きられ、すぐに物語性重視の時代を迎えます。
発展したのはこれだけではありません。オーケストラがどんどん大きくなり、最終的には初演に1030人の奏者を要した、マーラー作曲「交響曲第8番」(千人の交響曲)ほど巨大な作品が生まれることになります。
古典派とロマン派を聴き比べよう!
古典派とロマン派についていろいろ書きましたが...「百聞は一見に如かず」ならぬ「百見は一聞に如かず」。ぜひ聴き比べてみてください!オススメは古典派ならモーツァルトの「交響曲40番」やベートーヴェンの「ピアノソナタ17番『テンペスト』」、ロマン派はショパンの「ピアノ協奏曲第1番第2楽章」、リストの「愛の夢第3番」などです。
「古典派」「ロマン派」と書くと少し難しい気がしますが、要はシンプルなのが「古典派」、オシャレなのが「ロマン派」。どちらにも素敵な曲がたくさんあります。いろんな曲を聴き比べて、お気に入りの1曲を探してみてはいかがでしょうか。