目次
突然ですがクイズです。
① ヴィヴァルディ作曲 ヴァイオリン協奏曲『四季』
② バッハ作曲 小フーガト短調
③ モーツァルト作曲 ピアノソナタ16番 ハ長調
④ サン=サーンス作曲 動物たちの謝肉祭
これらの4曲は、ある法則で2曲ずつ2つのグループに分けることが出来ます。
それはどのようなグループでしょうか?
ちなみにこれらの曲の作曲者は、生きた時代も国籍も異なります。
当然面識もありませんでした。楽器編成も楽曲構成もバラバラです。
分からない?この記事はそんなあなたのための記事です!
キーワードとなるのが、「絶対音楽」「標題音楽」という言葉です。
ほとんどの方にとって聞きなじみのない言葉なのではないでしょうか?専門教育を受けている音大生でさえ知らない人がいるかもしれません。しかし、この世に生み出されたクラシック音楽は一部の例外を除いてほぼ全て、この2つの言葉によってグループ分け出来てしまいます。
ここでは、そんな音楽学の専門用語「絶対音楽」と「標題音楽」についてご紹介します。
これを読めば、普段聞いている音楽も一味違って聞こえるかも?
冒頭のクイズの答えは記事の最後にあります。
どうぞ飛ばさずにお読みください。
突如現れたふたつの概念!?絶対音楽と標題音楽
「標題音楽」と「絶対音楽」という言葉は、クラシック音楽の長い歴史の中では比較的新しい概念と言えます。
「標題音楽」という語の初出は、19世紀半ばにリストによって書かれた論文だと言われています。
また、「絶対音楽」は「標題音楽」の対義語と定義できます。
しかし、リストが提唱する以前にも、「標題音楽」と呼べる作品は多数存在しています。
分類されたのが19世紀だっただけで、古くはルネサンス時代の音楽にも「標題音楽」と呼ぶべき作品群があったのです。
それでは、「標題音楽」「絶対音楽」とは何なのでしょうか?
それぞれ詳しく解説していきます。
テーマが命!「標題音楽」の世界
音楽には、音を通じて様々なもの、例えば季節感や天気の様子といった情景・心情などを描いた作品があります。これらを「標題音楽」と呼んでいます。
記事冒頭で触れたヴィヴァルディの「四季」は、リストの論文よりはるか昔の作品ですが、春の美しさや夏の暑さなど、各季節の情景を巧みに表現しているため、標題音楽に分類されると考えられます。
ただ、「標題」という言葉から「サブタイトル」をイメージする人もいるかもしれません。
例えばベートヴェーンの交響曲「運命」やピアノソナタ「熱情」など、有名なタイトルが付けられた作品が数多くありますが、これらはベートーヴェンではなく弟子や友人・後世の人間によってつけられたタイトルなので、標題音楽には含まれません。
つまり、「作曲者が情景などを描写しようとしたかどうか」が「標題音楽」の条件で、「サブタイトルの有無」は関係ないんです。
ちなみに同じくベートーヴェンの交響曲「田園」については標題音楽とする説・絶対音楽とする説の双方があるようです。
サブタイトルがついたもう一つの交響曲「英雄」は後述する絶対音楽に分類されます。
ちなみに、歌曲やオペラ、その他声楽付きの作品、そしてバレエ音楽は標題音楽には含まれません。言葉や芝居によって世界が明確に表現されているからです。
純然たる音の世界!「絶対音楽」
標題音楽に対し、情景描写やストーリー性を全く含まず、ただ音楽の美しさや音の造形美を目指したものを「絶対音楽」と呼びます。
つまり標題音楽と声楽・バレエ作品以外は全て「絶対音楽」と呼んで差し支えないでしょう。
絶対音楽は、器楽曲が発達したバロック期~古典派の時代に多く作曲されました。バッハの器楽曲の多くは、緻密に計算されて作られた絶対音楽です。
ベートーヴェンやモーツァルト、ハイドンなどピアノソナタも多くは絶対音楽。彼らも標題音楽を作りましたが、時代の中心はやはり絶対音楽でした。
こういうとバロック・古典派の音楽が無味乾燥に思われるかもしれませんが、そうではありません。
バッハの「無伴奏チェロ組曲」のように、心にスッと入ってくるような絶対音楽も数多く作られました。
さらに、「余計な物」=標題を取り除くことで、より複雑な音楽を構築する技術が培われました。
こうした蓄積の中から、ロマン派に多く見られる「より標題的な音楽」が生まれ、さらに後世には「新古典派」に代表される絶対音楽への回帰へと至るのです。
あなたは絶対音楽派?標題音楽派?クイズの答えは?
ここまで読んでくださった皆さん、冒頭のクイズの答えは分かったでしょうか?
正解は「①と④が標題音楽」「②と③が絶対音楽」でした。
いかがでしたか?
少しだけ解説しましょう。
①の「四季」は前述のとおり、各季節の情景を巧みに描き出しています。
④の「動物たちの謝肉祭」は各動物の様子がよく表現されているので、標題音楽というものがいまいちピンと来なかった方は聴いてみると理解しやすいかもしれません。
②の「小フーガ」は、対位法という作曲技法のうち、フーガ形式という形式をもって作られた作品です。音の様式美と言っていいでしょう。
③はピアノ経験者なら誰でも知っている超有名曲。ソナタ形式と呼ばれる、これまた音の様式美を目指して作られた楽曲です。
もちろん、絶対音楽から何かの情景を想起するのは自由です。
筆者が通っていた音楽大学の副科ピアノの先生で、モーツァルトの「トルコ行進曲」を「軍隊で引き離された男女の恋物語」と表現した先生がいました。「トルコ」は当時の流行りに乗っただけで、行進曲ですが形式はロンド。
ちなみにピアノソナタ11番の第3楽章で、絶対音楽に分類されます。
モーツァルトがそこまで考えて作ったかは分かりませんが、このように、絶対音楽にはむしろ想像の自由が許されている部分もあるのかもしれません。
そういう意味では、むしろ標題音楽の方が限定的な楽しみ方になり得ます。
音楽の聴き方も好みも人それぞれ。
でも、音楽を別の角度から見て(聴いて)みると、また違った世界が見えてきます。
これこそが芸術鑑賞の楽しみでしょう。
是非いろんな音楽を様々な角度から鑑賞してみてください。
もしかしたらその中に、作曲家が思い描いた本当の世界が隠れているかもしれません。