オーケストラお仕事探訪①「コンサートマスター」

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皆さんがよく目にするオーケストラ。十数人の小さいものから100人を超える大きいものまで非常に幅広い編成があり、そのほとんどが指揮者を中心に演奏します。

しかし、オーケストラの中には、指揮者同等、あるいはそれ以上に重要視される役職があります。その名も「コンサートマスター」。

オーケストラ内の人や楽器には数々の役職や役割がありますが、ここではリーダー的存在であるコンサートマスターについてご紹介します。

コンサートマスターって何?楽器は?

コンサートマスターという名前だけでは、楽器が分かりませんね。オーケストラの場合、「第一ヴァイオリン」の首席奏者が務めます。首席奏者とは、各楽器のパートリーダーのような立場の人です。

「コンサートマスター」という呼び方だと長いので、専門用語で「コンマス」と略して呼ぶことが多いです。ちなみに女性奏者の場合は「マスター」の女性形「ミストレス」を用い「コンサートミストレス」、略して「コンミス」と呼ばれています。

座る位置は決まっていて、客席から舞台を見たときに、指揮者の左側最前列、最も客席寄りの位置に座ります。オーケストラの配置は国やオーケストラごとに細かく違う事も多いですが、コンサートマスターの席だけは万国共通。必ずこの位置です。

吹奏楽やビッグバンドにおいては「バンドマスター」という名前で呼ばれることもあるようです。第一クラリネットの首席奏者が務めますが、これはオーケストラのコンマスと同じ位置に座っていることから、同じ役割を与えられたと言われています。

コンサートマスターの仕事!① ボウイング決め

コンサートマスターの仕事は、舞台に上がる前から始まります。その仕事とは「弦楽器のボウイング決め」。ある意味、コンサートマスターの最大の仕事と言えるかもしれません。少し細かくご紹介します。

弦楽器は、楽器本体に張られた弦を、馬のしっぽの毛を張った弓で擦ることで音を鳴らします。この弓の擦り方を「ボウイング」と言い、擦る方向によって微妙に音色が変わります。弓の根元から先のほうに向かって弾くのを「ダウンボウ」、弓の先から持ち手に向けて擦るのを「アップボウ」と呼びます。

弓の長さが決まっているため、同じ方向に擦り続けることはできません。どこかで逆向きに戻しながら擦る(「弓を返す」と言います)、もしくは一度弦から弓を離してリセットしなければなりません。

また、集団で美しい音を奏でるには、この「弓を擦る向き」と「弓を擦る早さ」などをそろえる必要があります。そこで登場するのがコンマスです。合奏の前に弦楽器セクション全てのボウイングを決めておき、全ての奏者に伝達しておかなければなりません。

このボウイングで弦楽器セクションが出す音色が決まると言っても過言ではありません。それはすなわち、「オーケストラ全体の音色を決める」ことにもつながります。そのため、コンマスは経験豊富かつ能力の高いヴァイオリニストを選び就かせる必要があります。

また、「ゲストコンマス」として、外部から奏者を招聘することもあります。協奏曲のゲストソリストとは異なり、有名オーケストラでコンマス経験を積んだベテラン奏者がゲストとして呼ばれることが多いです。

アシスタントコンマス」という役職も存在し、コンマスの仕事をフォローしたり、演奏時にはコンマスの隣に座って演奏したりします。次世代のコンマス養成のため、指揮者とコンマスの打ち合わせにも同行することがあるようです。

コンサートマスターの仕事!② チューニング

舞台に上がって、演奏が始まる前にもコンサートマスターの仕事があります。コンマスが立ちあがったら、チューニング開始の合図です。

チューニングはまず、音程のコントロールが難しいオーボエの出す音に合わせるのが原則です。オーボエに管楽器が合わせ、その間にコンマスがそれに合わせてチューニングを行います。そしてコンマスの音に合わせて弦楽器セクションが音を揃える...という手順です。

↓チューニングに関する詳しい記事はこちら↓
え?440Hzじゃないの?クラシック音楽界のチューニング事情

コンサートマスターの仕事!③ アンサンブルの要!

オーケストラ奏者は、常に指揮者を観察し、その要求に答えていく必要があります。その上で、周囲の奏者と息を合わせて演奏しなければなりません。この「息を合わせて演奏する」ことを、「アンサンブルする」と表現します。

しかし、大規模な編成のオーケストラの場合、一番遠い奏者同士では10メートル以上離れていることもあります。これでは息を合わせるのは至難の業。それどころか、100名近い奏者がアンサンブルしなければなりません。しかも指揮者によって微妙に指揮法が異なり、全員が正確にアンサンブルすることは非常に難しい作業になります。そこで奏者が頼りにするのが、コンサートマスターの動きです。

弦楽器の奏者は、指揮を見ると同時にコンサートマスターの呼吸や動きにも注目し、タイミングを合わせています。管楽器や打楽器も、それぞれのセクション内でのアンサンブルは自分の感覚で合わせられますが、大人数の弦楽器と合わせるときには必ずコンサートマスターに意識を向けます。

コンサートマスターの仕事!④ ソロパート

オーケストラ作品では、しばしばヴァイオリンパートにソロが与えられることがあります。協奏曲のようにあらかじめソリストを立てるのでなく、楽曲の一部分だけをソロとして演奏する場合です。

この際、ソロパートは原則コンサートマスターが演奏します。椅子に座ったまま演奏するのも、協奏曲などのソリストと異なる点です。

ちなみに、他の楽器にソロパートが与えられることもありますが、この場合もコンサートマスターと同様、各楽器の首席奏者が演奏します。

コンサートマスターはとても重要な役割を担っていた!

コンサートマスターの役割と重要性について、紹介してきました。演奏会で見える仕事だけではなく、オーケストラ全体を支える云わば「大黒柱」のような存在がコンサートマスターです。

演奏会の最後、カーテンコールの際には指揮者に握手を求められることも非常に多く、このことからも、コンサートマスターが実質的な「オーケストラの」であると言えます。

オーケストラのコンサートへ行った際は、コンサートマスターの仕事を観察するのも面白いかもしれません。最近ではDVDやテレビ放映などで奏者の視線や表情をアップで観ることも出来ます。ぜひチェックしてみてください。

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