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突然ですが、楽譜を想像してみてください。楽譜が読める方も読めない方も、きっと「五線譜に音符が書かれてる紙や本」を想像したと思います。正解です。
では、ピアノの鍵盤を想像してください。たくさんありますね。通常のグランドピアノでは88個の音の数だけ鍵盤があります。オーケストラでも、超低音から超高音まで、様々な楽器が五線譜を見て演奏します。
では、「5本の線」と「オタマジャクシ=音符」だけで、どうやって幅広い音程を書き記しているのでしょうか?これ、意外と答えられる人は少ないと思います。実は「譜表」を用いることで、幅広い音程を書き記しています。
ここで本題です。譜表とはいったい何でしょうか?これぞマニアックな知識!「聴き専」のクラシックファンこそ必見!意外と知らない「譜表」の世界をご紹介します。
全部で〇種類!?音部記号・譜表の種類!
義務教育の教科書にもあるように、クラシック音楽の記譜には「五線譜」を用います。文字通り5本の線に音程と音価(音の長さ)を示す記号=「音符」、あるいは音のない時間を示す「休符」を書き記します。しかし、ただ五線譜に音符を並べただけでは、それは楽譜にはなりません。何が足りないのでしょうか?
五線譜と音符・休符以外に足りないもの。それは、音の高さの基準を示す記号です。クラシック音楽の世界では、この「基準音を示す記号」のことを「音部記号」と呼び、音部記号を五線譜上に表示して基準音を示したものを「譜表」と呼びます。記譜したい音符の高さなどによって数種類の譜表を使い分けます。
記譜法の進化の過程ではかなりの数の音部記号や譜表が誕生しましたが、現在用いられている音部記号は3種類。「ト音記号」「ヘ音記号」「ハ音記号」です。これらの記号について、ひとつずつ詳しく解説していきます。
まずは基本をおさらい!ト音記号
「ト音記号」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?名前を知らなくても、たぶん見たことはあると思います。真ん中がグルグルしてるアレです。恐らく義務教育の全ての教科書に載っているこのグルグルマークのことを「ト音記号」、ト音記号が書かれた五線譜を「ト音譜表」または「高音部譜表」と呼びます。
数ある音部記号、譜表の中でも登場回数がぶっちぎりで多い「ト音記号」ですが、「ト音記号」という名前、なんだか不思議な感じがしますね。「ト」って何?トオン?
実は「ト音」とは音階の「ソ」の音のことで、「グルグルの中心部がソの音ですよ」という目印の記号なんです。音階にはそれぞれ固有の名前があり、ドレミファソラシは英語で「CDEFGAB」、つまりラから始まる「ラシドレミファソ」は「ABCDEFG」となります。
「なぜドではなくラがAなの?」という疑問があるかと思いますが、長くなるのでそれはまたの機会に...。そんなヨーロッパの音階固有名を輸入した明治政府は、庶民になじみのないABCDEFGの代わりに、当時の日本人がよく知っていた日本のアルファベット「イロハニホヘト」をあてました。
「ト音記号」は英語で「G clef」。輸入したばかりのこの記号は、「G音=ト音=ソ」の位置を示す記号という意味の「ト音記号」という日本語名が付けられました。ちなみに複雑なあの形は、元々はGを書き崩したものが形を変えて現在のような姿になりました。
別名の「高音部譜表」という言葉が示す通り、比較的高い音域を表記する際によく用いられます。ピアノの右手パートの多くはト音記号、さらにヴァイオリンやフルート、オーボエ、クラリネット、トランペット、ホルン、声楽や合唱における女声パートなど、使用例は枚挙に暇がありません。
通称「低音部譜表」!ヘ音記号とは
「ヘ音記号」は通称「低音部記号」と呼ばれ、ト音記号とは反対に低音の表記に適しています。共学の学校に通っていた方は、クラス合唱で男子が歌っていたパートにこの記号が用いられていたはずです。ヘ音記号が書かれた五線譜を「ヘ音譜表」と呼びます。
名前はト音記号と同様、音階の「ヘ」の音、つまりF(ファ)の音を示す記号であることから付けられました。耳のような形と、右に点が2つ。耳の上側の書き始めの点、右側の2点の間がファの音を示しています。これも元々は「F」の字が書き崩されたものでした。
楽器ではチェロやコントラバス、ファゴット、チューバなどの低音を担当する楽器の記譜に用いられます。
縁の下の力持ち!?ハ音譜表の特殊な使われ方
最後にご紹介するのは、「ハ音記号」と呼ばれるもの。これはかなり本格的にクラシック音楽に触れている人でないと知らないかもしれません。高校までの音楽の授業ではまず教わらない上、吹奏楽部やオーケストラ部などに所属していても、特定の楽器に携わるなどしないと接点がないんです。
ハ音記号も前述のト音記号ヘ音記号と同様、「ハ音=C(ド)」の位置を示すための記号です。元の形ももちろんCで、ト音記号ヘ音記号よりは形を残しているような気がしますね。
ハ音記号が書かれた五線譜を「ハ音譜表」と呼ぶのもト音へ音譜表と同様ですが、最大の違いはその種類。基準のハ音=ドの位置によって異なり、その数は五線の数の分=5種類もあるんです!
そのため、ハ音記号が書かれる位置によって全て異なる名前が付けられています。5本の線のうち、ハ音記号が置かれる線ごとに下から「ソプラノ譜表」「メゾソプラノ譜表」「アルト譜表」「テノール譜表」「バリトン譜表」という5種類の名前が存在します。
バリトン譜表のみ、「低音部譜表のヘ音記号の位置を一段下げたもの」と同じ音の配置になるため、同一視されることもあります。これらの譜表は元々、合唱やオペラなどの声部の書き分けのためにもちいられていました。
19世紀に出版されたオペラのスコアのうち、現在まで改訂されていない物については、これらの譜表で書かれているものが現在も出版されています。あまり上演されない作品に、この現象が多く起きているようです。
しかし、現在では限られた楽器の記譜以外ではほとんど用いられることはありません。オーケストラにおいては、アルト譜表を用いるヴィオラ、テノール譜表を用いるチェロとトロンボーン、ファゴット(いずれも高音の演奏時のみ)の4種類のみで、「ソプラノ譜表」「メゾソプラノ譜表」「バリトン譜表」についてはほぼ絶滅しています。
音部記号のない譜表!?少し変わった打楽器の楽譜
なお、中には音部譜表を用いない記譜法を持つ楽器もあります。音程を持たない打楽器がこれにあたります。音程を持つティンパニーやマリンバなどは、通常通りヘ音譜表やト音譜表を用いますが、バスドラムやシンバル、スネアドラムなどは音程を書き示す必要がないため、リズム表記のみの譜表を用います。
かなりマニアック!?な譜表の世界を解説してみた!
いかがでしょうか?意外と知らない譜表の世界について、ざっくりとご紹介してきました。専門教育を受けないと知らないようなマニアックな情報もありましたが、これらはほんの氷山の一角。楽譜の世界は奥深いのです。
これを機に楽譜に興味を持った方は、ぜひ楽器店に足を運んでみてください。文庫本サイズのオーケストラの楽譜は比較的安価で手に入ります。楽譜が読めなくても大丈夫!作曲家の情熱とクラシック音楽の歴史が詰まった1冊。お気に入りの曲のスコアを眺めながら演奏を聴くのも、楽しいものですよ。